2026年夏、木曜深夜のテレビアニメには、なぜか煙が立ちこめている。
7月2日に『ヤニねこ』が始まり、その翌週の7月9日には『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』が放送を開始した。
ヤニアニメなどというジャンルはもちろん存在しない。
それでも、煙草を題材にしたアニメが同じクール、それも同じ曜日に二本並ぶ状況を見ると、令和はどうなってしまったんだと言いたくなる。
ただし、両作の方向性はかなり違う。
『ヤニねこ』が喫煙者のだらしない日常を獣人コメディへ変換するのに対し、『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』が描くのは、仕事に疲れた大人二人が、スーパーの裏で少しずつ距離を縮めていく時間だ。
煙草は派手な事件を起こす小道具ではない。
他人同士が立ち止まり、同じ場所で話すためのきっかけになっている。
レジの山田さんと喫煙所の田山さん
主人公の佐々木(CV:佐藤拓也)は、日々の仕事にすり減らされている中年会社員である。
彼に残された小さな楽しみは煙草と、行きつけのスーパーSで働く山田さんの接客だった。
ところが、仕事帰りに店を訪れた夜、山田の姿はなく、煙草を吸える場所も見つからない。
そこで声をかけてきたのが、派手な服装の田山だった。
山田/田山(CV:星希成奏)は、レジでは柔らかな笑顔を見せる一方、喫煙所では佐々木をからかい、反応を楽しむ。
視聴者には二つの顔がほぼ示されているのに、佐々木の中では山田と田山がなかなか結び付かない。
そのため、物語の中心にあるのは正体当てではなく、佐々木が相手をどこまで知り、どの時点で目の前の事実に気付くのかというもどかしさだ。
この鈍感さを微笑ましく見られるか、じれったく感じるかで、作品への距離は少し変わるだろう。
何も起きない時間をアニメにする
監督は鈴木理人と森あおい、シリーズ構成は井上美緒、アニメーション制作は旭プロダクションが担当する。
本作で難しいのは、会話の内容以上に、言葉と言葉の間をどう映像へ置き換えるかである。
佐々木の遠慮、田山のからかい、返事を待つ一瞬の沈黙が崩れると、二人の距離まで急に近く見えてしまう。
星希成奏が収録について、吐く息にも時間をかけたと語っている点からも、声の強さより呼吸や間を重視した作りがうかがえる。
放送前には、テレビ放送版の第1話から第6話を約10分の短編へ分割し、全12話に再編集したABEMA限定先行配信版も公開された。
先に短い単位で会話を届け、7月から通常のテレビ放送版を展開する構成は珍しい。
大きな事件より、一度の立ち話や小さな贈り物で関係を進める作品だけに、短編として区切っても一つの話が成立しやすい。
スーパーSを取り巻く大人たち
二人の関係を遠巻きに見ているのが、スーパーSで働く面々である。
後藤(CV:行成とあ)は店員から信頼される有能な店長だが、田山と佐々木のやり取りについては面白がる側へ回る。
大野(CV:豊口めぐみ)は穏やかなベテランレジスタッフで、酒豪という意外な一面を持つ。
青果部門チーフの小畑(CV:安田陸矢)は後藤を尊敬する真面目な長身の青年だ。
レジ部門チーフの前澤(CV:日笠陽子)は、豪快で面白いことが好きな人物で、佐々木を「山田のファン28号」と勝手に命名する。
佐々木の会社側には、大学時代からの友人でもある同僚の鈴木(CV:高橋伸也)がいる。
秘密を抱えた山田/田山と、事情を察して楽しむ周囲の人物が並ぶことで、佐々木一人だけが少しずつ置いていかれる構図ができている。
主要キャストの以前の共演作品
佐々木役の佐藤拓也と前澤役の日笠陽子は『キャッツ♥アイ』で刑事同士を演じている。
日笠陽子と後藤役の行成とあは、テレビアニメ『ベルセルク』で、同じ旅に加わるファルネーゼとキャスカを担当した。
佐藤拓也と日笠陽子、怪盗を追う刑事同士
『キャッツ♥アイ』
『キャッツ♥アイ』は、北条司の漫画を新たに映像化した全12話のアニメで、2025年9月から2026年1月にかけてDisney+で配信された。
怪盗キャッツアイとして美術品を狙う来生三姉妹と、彼女たちを追う刑事たちの攻防を軸に、次女の瞳と刑事の内海俊夫の恋愛が重なる。
俊夫は、自分が追う怪盗の正体が恋人の瞳だとは知らない。
浅谷光子は俊夫の同僚で、同じく怪盗キャッツアイを追う知的で冷静な女性刑事である。
二人は同じ捜査側に立ち、予告状を残して美術品を奪うキャッツアイへ迫っていく。
一方の俊夫は、事件のすぐ近くにいる瞳を恋人として信じているため、職務と私生活が絶えず衝突する。
浅谷と俊夫の関係は単なる同僚では終わらず、同じ事件を見ながら、どこへ疑いを向けるかという判断の差を生む。
佐藤拓也が演じる俊夫は、怪盗を捕まえようと前へ出る刑事でありながら、瞳の前では恋人として振り回される。
日笠陽子の浅谷は、感情を先に出す俊夫の横で捜査を進める役回りにいる。
二人の会話が置かれるのは、怪盗ものの緊張と、恋人の正体に届かないラブコメの境目である。
日笠陽子と行成とあ、旅の中で同じ危機をくぐる二人
テレビアニメ『ベルセルク』第2期
三浦建太郎の漫画を原作とするテレビアニメ『ベルセルク』は、2016年に第1期、2017年に第2期が放送された。
黒い剣士ガッツが、失踪したキャスカを取り戻し、異形の存在と戦いながら旅を続ける物語である。
ファルネーゼとキャスカの関係が継続的に描かれるのは、第2期に入ってからだ。
ファルネーゼは、法王庁直属の聖鉄鎖騎士団を率いていた人物である。
第1期では教義に従ってガッツを追う側にいたが、やがて騎士団を離れ、セルピコとともにガッツの旅へ加わる。
キャスカはかつてガッツとともに戦った鷹の団の剣士だが、この時期には深い傷を負い、周囲の助けを必要としている。
旅へ加わったファルネーゼは、自分が戦力になれない現実へ何度も直面する。
第16話ではキャスカとファルネーゼがそろってトロールにさらわれ、第20話では二人を奪還するため、ガッツたちが異界クリフォトへ踏み込む。
ファルネーゼは信仰と権威に守られた騎士団長から、恐怖の中で他者と行動する一人の旅人へ変わっていく。
二人の掛け合いは、軽快な会話で進むものではない。
日笠陽子は、誇り高さの奥にある動揺や無力感を声へにじませる。
行成とあは、言葉による説明が難しいキャスカの不安を、叫びや息遣い、相手への反応で伝える。
トロールの洞穴に二人の悲鳴が響く場面は、言葉の少ない関係を、恐怖と同行という形で刻みつける。






