2026年7月に放送を開始した『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』は、士郎正宗の原作漫画を改めて映像化するテレビアニメである。
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』とは物語上の連続性を持たず、草薙素子たちが公安9課へ集まるところから新たに描き始める。
原作漫画に近い人物造形と膨大な情報量を前面に出す一方、キャストには歴代シリーズと深く関わってきた声優が別の形で集まった。
田中敦子の死後に草薙素子を引き継いだ坂本真綾をはじめ、かつてのバトー役だった大塚明夫、1995年版でゴーストハックされた清掃局員を演じた山路和弘が、新しい公安9課の物語へ参加している。
2029年、公安9課が始動する
舞台は電脳化や義体化が広く普及した西暦2029年。
全身義体のサイボーグである草薙素子(CV:坂本真綾)は、犯罪を未然に防ぐ攻性組織の設立を目指していた。
内務省公安部の荒巻大輔(CV:山路和弘)も同様の構想を抱いており、素子が率いる部隊を公安9課へ迎え入れる。
こうして後に「攻殻機動隊」と呼ばれる組織が動き始め、国家や企業の思惑が絡む電脳犯罪と、正体不明のハッカー「人形使い」を追っていく。
素子の片腕となるバトー(CV:安元洋貴)は、両目を義眼化した屈強な戦闘要員であり、部隊のナンバー2にあたる。
戦闘や電脳戦では高い能力を発揮する一方、私生活では大胆に振る舞う素子へ遠慮なく不満を漏らす。
原作に近い軽快な掛け合いを支える人物でもある。
トグサ(CV:中村悠一)は、本庁の刑事から素子にスカウトされた公安9課の新米隊員だ。
電脳化はしているものの身体の大部分を生身のまま残し、義体化した熟練者が並ぶ部隊では異質な存在となる。
事件へ驚き、迷い、感情を表へ出すトグサの反応は、専門用語と高度な技術が飛び交う物語において、視聴者が公安9課の世界へ入るための足場にもなる。
中村悠一も、今回のトグサは9課の仕事にまだ慣れ切っておらず、従来の映像作品より喜怒哀楽が豊かな人物になると説明している。
原作漫画の軽やかさと情報量を映像へ移す
アニメーション制作はサイエンスSARUが担当する。
監督はモコちゃん、シリーズ構成と脚本は円城塔、キャラクターデザインと総作画監督は半田修平が務める。
人物の線には過去のアニメ版より丸みがあり、未来的な都市や機械の中へ、雑然とした生活感やレトロな意匠が入り込む。
押井守監督の劇場版が静けさと思索を強調し、『S.A.C.』シリーズが組織犯罪へ挑む公安9課の職業性を押し出したのに対し、本作は原作漫画のにぎやかな会話と雑多な情報量を取り戻そうとしている。
その違いは草薙素子の人物像にも表れる。
今回の素子は圧倒的な戦闘力と電脳戦能力を持ちながら、冗談を口にし、部下を振り回し、表情を大きく変える。
坂本真綾も、従来のアニメ版よりエネルギッシュで、コミカルな場面の多い素子だと述べている。
作中では事件の捜査と並行して、義体とロボットの違い、皮膚感覚を再現するマイクロマシン、AIが経験を共有する仕組み、ゴーストが個体へ定着する条件などが次々と語られる。
物語だけを追えば理解できるが、細部へ踏み込むほど新たな疑問が現れる構成だ。
欄外の注釈まで含めて読む原作漫画の感触を、映像と公式サイトの補足情報へ分けて再構成している。
坂本真綾へ受け継がれた草薙素子
田中敦子は1995年の劇場版から『S.A.C.』シリーズ、『イノセンス』『SAC_2045』まで、長年にわたって草薙素子を演じてきた。
その田中敦子が亡くなった後、新作で素子を引き継いだのが坂本真綾だった。
ただし、坂本真綾と草薙素子の関係は今回から始まったものではない。
1995年の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』では、人形使いとの融合を経た素子が移る少女型義体の声を担当していた。
田中敦子の声で話していた素子が、新しい身体と声で目を覚ます。
当時15歳だった坂本真綾は、素子がそれまでとは異なる存在へ移行したことを声で示す役割を担った。
2013年に始まった『攻殻機動隊ARISE』では、陸軍501機関から離れ、自分の部隊を作ろうとする若き日の素子を演じている。
少女型義体へ移った素子、公安9課結成前の素子、そして原作漫画へ立ち返った素子。
坂本真綾はシリーズ内の異なる地点で、草薙素子が身体や立場を変える瞬間に立ち会ってきた。
本人は田中敦子と長年親交があり、俳優としても尊敬していたため、今回の依頼をすぐには受け止められなかったと語っている。
田中敦子の演技をそのまま再現するのではなく、新しい作品が求める活動的な素子を作る。
過去のシリーズを切り離さず、それでも別の方向へ踏み出す本作の姿勢が、この配役には表れている。
旧シリーズの声が別の役で戻ってくる
第3話に登場するマレス大佐(CV:大塚明夫)は、軍の機密情報を狙われ、公安9課の監視対象となる人物だ。
荒巻とバトーがマレス大佐を見張る場面では、かつてバトーを演じた声が、新しいバトーの向かい側から聞こえてくる。
大塚明夫は1995年の劇場版をはじめ、『S.A.C.』シリーズや『SAC_2045』でもバトーを担当してきた。
今回はバトー役を再演するのではなく、公安9課が追う事件の当事者として登場する。
安元洋貴の低く太い声で動く新しいバトーと、大塚明夫の声を持つマレス大佐が同じ場面へ並ぶため、歴代作品を知る視聴者には情報量の多い配役となった。
荒巻役の山路和弘にも、1995年版との接点がある。
当時演じていたのは、ゴーストハックによって偽の記憶を植え付けられた清掃局員だった。
その男は離婚した妻と娘がいると信じ込み、家族との関係を修復するためだと思って、人形使いの犯罪へ利用される。
存在しない家庭の記憶を疑えず、自分の人生そのものを奪われた被害者である。
2026年版では、その山路和弘が公安9課を組織し、電脳犯罪を追う荒巻を演じる。
ゴーストハックに翻弄された市民から、電脳犯罪へ対抗する組織の責任者へ移った。
山路和弘の荒巻が人形使いを追う場面には、1995年版で人形使いに人生を作り替えられた清掃局員の記憶も重なる。
主要キャストの以前の共演作品
草薙素子とトグサを演じる坂本真綾と中村悠一は、『フルーツバスケット』で愛情と執着が絡み合う二人を演じた。
素子とバトーを担当する坂本真綾と安元洋貴には、『王様ランキング』で恩義と忠誠の間に立たされる師弟を演じた共演歴がある。
坂本真綾 × 中村悠一 愛情と執着が絡み合う二人
『フルーツバスケット』
『フルーツバスケット』は、高屋奈月の漫画を原作とするテレビアニメである。
2019年から2021年にかけて全編が再アニメ化され、異性に抱きつかれると十二支の動物へ変身する草摩家の呪いと、その家に蓄積してきた傷を描いた。
坂本真綾が演じる草摩慊人は、十二支の物の怪に憑かれた者たちを支配する草摩家の当主だ。
自分は十二支の者たちから永遠に愛されると信じる一方、見捨てられることへ強い恐怖を抱き、暴力や威圧によって相手をつなぎ留めようとする。
中村悠一が演じる草摩紫呉は、軽口を絶やさない小説家である。
柔らかな態度の裏に本心を隠し、自分の目的を果たすためなら、透や十二支の者たちだけでなく慊人の感情も利用する。
紫呉が強く求めている相手は慊人であり、慊人もまた紫呉を必要としている。
しかし、二人は互いへの愛情を素直に示さず、嫉妬や報復によって相手を傷つける。
慊人が十二支との特別な絆へ固執するのに対し、紫呉はその絆が壊れた先で自分だけを選ばせようとする。
坂本真綾は、他者へ命令する慊人の声を鋭く響かせながら、見捨てられる恐怖が表へ出る場面では声を幼く崩す。
中村悠一の紫呉は終始穏やかに話すが、感情を露出しない語り口が、何を考えているのか分からない不気味さへつながる。
互いを求めているにもかかわらず、相手が最も傷つく言葉を選んでしまう。
慊人と紫呉の関係では、静かな声同士の応酬が激しい口論より重く残る。
坂本真綾 × 安元洋貴 恩義と忠誠の間で揺れる師弟
『王様ランキング』
『王様ランキング』は、十日草輔の漫画を原作とするテレビアニメで、2021年から2022年にかけて放送された。
耳が聞こえず、非力だと蔑まれてきた王子ボッジが、カゲとの出会いをきっかけに王を目指す物語である。
坂本真綾が演じるミランジョは、魔法の鏡を通じて第二王子ダイダへ助言を与える謎の女性だ。
王国の裏側で計画を進め、ダイダの身体を利用して亡きボッス王を復活させようとする。
安元洋貴が演じるアピスは、ボッス王国の四天王「王の槍」と呼ばれる槍使いである。
現在は優れた戦士だが、若い頃は恐怖心が強く、十分に実力を発揮できなかった。
アピスはミランジョの弟子として導かれ、自信を得た過去を持つ。
そのため、成長した後も彼女を「ミランジョ様」と呼び、深い恩義を抱いている。
アピスはダイダへ秘薬を飲ませる計画にも協力するが、ミランジョの行動によって王国の人々が傷ついていくと、忠誠だけでは動けなくなる。
彼にとってミランジョは、命令を下す黒幕である以前に、自分を弱さから救い上げた恩人だ。
彼女を裏切れば、現在の自分を作った過去まで否定することになる。
坂本真綾はミランジョの声を静かに保ち、冷徹な計画の奥へ孤独と執着をにじませる。
安元洋貴のアピスは多くを語らず、低く抑えた声とわずかな間によって、従うべき相手と守るべき人々の間で揺れる感情を示す。
ミランジョが差し向けた魔物にヒリングたちが襲われたとき、アピスは恩人への思いを捨てないまま、その命令には従わず槍を振るう。
忠誠を誓った相手を直接討つのではなく、彼女が引き起こした惨事だけを止めようとする行動に、アピスが抱え続けた恩義と苦悩が表れている。






